東京高等裁判所 昭和48年(ネ)605号 判決
控訴人の右定めの効力について判断する。本件弁論の全趣旨によれば、先に認定した控訴人の就業規則第四二条は控訴会社における賞与についての唯一の規定であると認められるが、同条の文言は前認定のとおりきわめて簡単なものであるうえ、「会社は・・・・・・賞与を与えることがある」となっているので、一見すると、控訴会社における賞与は、いかにも会社の任意的又は恩恵的なものであって、会社は賞与の額及び支給時期は勿論、支給対象者についても、自由にこれを決定することができるように見られないでもない。しかしながら、≪証拠≫を総合すれば、控訴会社においては、従来から、毎年六月及び一二月に、他の会社及び官公庁と同様、従業員に対し賞与が支給され、毎期、会社側が右賞与を支給すること(従業員の側から言えば、賞与を受けること)を当然の前提として、前記労働組合と賞与の額及び支給時期等について協定を結び、非組合員及び管理職についても右協定に準じて取扱ってきていること、又前記就業規則第四二条には「会社は・・・・従業員の過去六ケ月間の業務成績に応じて、賞与を与えることがある」と規定されているが、実際は、右業務成績に応じた考課査定に基く賞与というより、大部分、これに関係ない一律の生活給的な賞与であって、現に本件昭和四六年一二月の賞与については、前記計算期間を充足する限り、その支給率は全員一律となっていて、勤務成績に基く考課査定は一切行なわれなかったこと、並びに控訴人は外資系の会社であって、特に管理職を採用するに当つては年収契約によることが多く、従って控訴人と被控訴人間の入社時における雇傭契約においても、被控訴人の給与は月額約一三万円及び年間の賞与、六月と一二月で合計約七ケ月分と定められたことが認められるから、控訴会社における賞与は、従業員にとり(特に管理職である被控訴人にとっては)、単なる会社の恩恵又は任意に支給される金員ではなく、会社が従業員に対し労働の対価として、その支払を義務づけられた賃金の一部であると認めるのが相当である。ところで、前記就業規則第四二条にいわゆる「過去六ケ月間」とは、従来控訴会社においては、六月の賞与については前年一一月一日から当年四月三〇日まで、一二月の賞与については五月一日から一〇月三一日までを、それぞれいうものとされていたことは当事者間に争いがなく、≪証拠≫によれば、右各期間は控訴会社においては、賞与の計算期間又は支給対象期間と呼ばれていることが認められるので、以上の各事実に前記就業規則第四二条の文言全体を併せ考えると、控訴会社は六月又は一二月のいずれの賞与にせよ、右計算期間全部を勤務した従業員に対しては、右従業員がその後も在職しているか否かを問わず、当然、その期の賞与を支給すべき義務あるものというべく、従って既に具体的請求権として発生した賞与につき、控訴会社が一方的に右賞与の計算期間経過後の在籍者にのみこれを支給すると定めて、その権利を剥奪することは許されず、かかる定めは法律上無効であるといわなければならない。
(杉山 古川 岩佐)